「社員紹介で採用できれば、求人広告費も人材紹介会社への手数料も削減できる」——そう考えて、リファラル採用を導入する企業が急増しています。
実際、エンジニア採用や中途採用市場では、求人媒体だけでは応募が集まりづらくなっており、社員ネットワークを活用した採用手法に注目が集まっています。メルカリやクラウドワークスなどの大手企業でも導入が進み、アルバイト採用まで広がっている状況です。
ただし、リファラル採用は“紹介報酬”の設計を間違えると、職業安定法や有料職業紹介事業との線引きが問題になるケースがあります。
特に「紹介した社員に現金を支払う」「社外の知人紹介にも報酬を出す」といった制度は、運用方法によっては違法性を指摘されるリスクもゼロではありません。
この記事では、リファラル採用の基本から、紹介インセンティブの違法性、職業安定法との関係、就業規則への記載方法、注意すべき制度設計まで、採用支援の現場視点でわかりやすく解説します。
リファラル採用とは
リファラル採用(リファーラルリクルーティング)とは社員が自分の友人や知人を紹介・推薦することを意味します。日本では縁故採用(コネ採用)が一部の企業でおこなわれてきましたが、海外ほど積極的に導入する企業が少ない傾向にありました。
しかし、深刻化する日本の人材不足の問題、特に中途採用のエンジニア職は年々競争が激化している背景から、採用コスト削減を目的にリファラル採用の導入事例が増えてきました。
第二新卒採用や中途採用(経験者採用)だけでなく、モスバーガーやすかいらーくグループなどアルバイト・パート採用でもリファラル採用を実施している企業はいます。
中途採用のリファラル採用において紹介数を促進させるためにインセンティブ(報酬金)を付与するのが一般的です。
インセンティブ(報酬)とは多くの場合が金銭としており、企業によっては紹介した者だけでなく紹介されて入社した者に支払う場合もあります。そのインセンティブ(報酬)において違法性を問われる可能性があります。
リファラル採用の紹介報酬は違法?職業安定法との関係
リファラル採用は合法ですが、紹介報酬の設計を間違えると違法性を問われる可能性があります。
特に注意したいのが「人を紹介して金銭を得る行為」は、本来であれば「人材紹介業」に該当する可能性があるという点です。
人材紹介業を有料で行う場合は、厚生労働大臣の許可を受けた「有料職業紹介事業」の免許が必要になります。
そのため「社員紹介だから大丈夫」と安易に考えて制度を作ると、後から職業安定法との整合性が問題になるケースもあります。
職業安定法では募集への報酬が原則禁止
職業安定法では、労働者募集に対して報酬を支払うことは原則禁止されています。
実際、職業安定法第40条では以下のように定められています。
労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合又は第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。職業安定法 第40条(報酬の供与の禁止)
この条文だけを見ると「リファラル採用は違法なのでは?」と感じる方もいるかもしれません。しかし実際には、自社社員が紹介活動を行い、その対価を賃金・給与の一部として支払う形であれば、例外的に認められています。
実際に東京労働局にリファラル採用での違法性(インセンティブの是非)について確認したところ「就業規則に記載し、賃金で支払っていれば合法。ただし人材紹介などの生業(なりわい)に該当しないことが重要」という回答でした。
気をつけるべきポイントは3点ありますので、それぞれ詳しくまとめました。
注意点①就業規則に明記しておくことが重要
リファラル採用の報酬制度は、就業規則や賃金規程へ明記しておくことが必須です。
就業規則や賃金規程の一部としてインセンティブ(報酬)を追加することが必要不可欠。支給額や支払条件を明確にしましょう。支給額の目安は10万円~50万円が相場かと思います。後述しますが支払条件次第ではもう少し抑えた金額の場合もあります。
支払条件は試用期間終了後に支払うのが一般的な条件ですが、金額次第では内定や入社を条件にしても問題ないかと思います。制度設計が具体的に決まったら、就業規則の改訂をおこないましょう。制度設計ができていれば実務上の問題はほぼ発生しません。もしも不安な点があれば社会保険労務士など就業規則の専門家に相談するのが望ましいです。
注意点②高額すぎる紹介報酬は危険
紹介報酬が高額すぎると、生業としての人材紹介と判断されやすくなります。
法律上「何万円までなら合法」という明確な基準はありません。しかし重要なのは、副次的な社員紹介なのか、利益目的の紹介行為なのかという点です。
例えば、紹介インセンティブが100万円を超えるようなケースでは「単なる社員紹介制度」と説明しづらくなる可能性があります。
特に比較対象として考えたいのが、人材紹介会社への紹介手数料です。
一般的な転職エージェントでは、採用者の想定年収35%前後が紹介フィーの相場になります。年収300万円なら約100万円、年収600万円なら約200万円程度です。
そのため、社員紹介なのに人材紹介会社以上の高額報酬を支払っている場合「実質的に人材紹介ビジネスでは?」と疑われるリスクが高くなります。
リファラル採用は、あくまで採用コスト削減やカルチャーマッチ向上を目的とした制度です。紹介報酬だけが目的化すると、本来の制度趣旨からズレやすくなるため注意しましょう。
関連記事:リファラル採用のメリット・デメリットと注意点まとめ
注意点③社外への紹介報酬は特に注意が必要
社外の人へ継続的に紹介報酬を支払うと、人材紹介会社と同じ扱いになる可能性があります。
リファラル採用において社外の人から紹介を受ける場合も想定されます。もしも「社外の人からもリファラル採用を受け付けています!」という制度であれば紹介の可能性はかなり広がります。※ただし受給できる範囲を広げすぎても運用ができない可能性が高いです。
社外への報酬は制度設計ができていれば問題ありませんが、定期的に紹介を受けて支払いが発生する場合は人材紹介会社と同じ役割になるので注意が必要です。
特定の人(会社)に毎月紹介報酬が発生しそうな場合は危険です。ときどき紹介してもらい、それに対して妥当な範囲で謝礼を支払うという考え方であれば、合法の範囲内と解釈されます。
また1回限りであっても反復継続の意思があれば事業性があるとみなされます。例えば紹介先との人材紹介契約書を締結している、職業紹介を行う旨の広告宣伝をしている、職業紹介事業をホームページ等で告知している等は反復継続の意思があると見なされる可能性が高いと言えるでしょう。
リファラル採用と社内紹介制度の違い
リファラル採用と社内紹介制度は同じ意味で使われることもありますが、実際には少しニュアンスが異なります。
違いを理解せずに制度を作ると「単なる紹介キャンペーン」で終わってしまい、採用成果につながらないケースも少なくありません。
リファラル採用は採用戦略という考え方
リファラル採用は、単なる紹介制度ではなく採用戦略そのものです。
リファラル採用とは、社員の人脈や信頼関係を活用して、自社に合う人材を採用する考え方を指します。そのため、単に「紹介したら報酬を出します」という制度だけでは、本来のリファラル採用とは言えません。
本来のリファラル採用では、以下のような要素まで含めて設計されます。
- 社員が会社を紹介したくなる組織づくり
- カルチャーマッチ重視の採用
- 入社後の定着率向上
- 採用コスト削減
- 採用ブランディング強化
つまり、社員紹介を増やす施策ではなく、社員ネットワークを活用した採用戦略という考え方が近いでしょう。
社内紹介制度は運用ルールに近い
社内紹介制度は、リファラル採用を実行するための制度設計を意味します。
例えば「紹介したら○万円支給」「試用期間終了後に支払う」といったルール部分が、社内紹介制度にあたります。つまり、リファラル採用が考え方だとすれば、社内紹介制度は実際の運用方法です。
そのため、制度だけ整備しても、社員が会社を紹介したいと思っていなければ機能しません。逆に、社員満足度が高い会社では、大きな紹介報酬がなくても自然に紹介が発生することがあります。
「制度を作れば紹介が増える」と考える企業も多いですが、実際には組織文化の影響がかなり大きい採用手法だと言えるでしょう。
紹介報酬だけに依存すると失敗しやすい
お金を払えば紹介が増えるという考え方だけでは、リファラル採用は長続きしません。
実際、紹介インセンティブを高額に設定したものの、最初だけ盛り上がって終わる企業は少なくありません。理由は単純で、社員は「知人の人生」に関わるからです。
どれだけ報酬が高くても「この会社を紹介して本当に大丈夫かな…」と不安があれば、人は簡単には紹介しません。特に以下のような状態だと、紹介制度は機能しづらくなります。
- 離職率が高い
- 人間関係が悪い
- 長時間労働が常態化している
- 給与や評価制度に不満がある
リファラル採用は、社員満足度がそのまま採用力になる仕組みとも言えます。だからこそ、制度設計だけでなく、組織改善まで含めて考える必要があるのです。
リファラル採用が失敗する会社の特徴
リファラル採用は、導入しただけで成功するほど簡単な採用手法ではありません。
実際には「全然紹介が出ない」「社員が協力してくれない」と悩む企業も多くあります。特に、以下のような特徴がある会社は、リファラル採用が失敗しやすい傾向があります。
社員満足度が低い会社
社員が会社に不満を持っている状態では、知人を紹介したいとは思われません。
リファラル採用で最も重要なのは、求人広告でも報酬額でもなく社員からの信頼です。給与への不満、人間関係の悪化、残業の多さなどが積み重なっている会社では「友人を紹介して後悔されたくない」と感じる社員が増えます。
実際、紹介数が多い会社は、制度が優れているというより「社員が会社に満足している」ケースがほとんどです。逆に言えば、紹介が出ない会社は、採用施策以前に組織課題を抱えている可能性があります。
紹介制度だけ作って運用していない会社
制度を作っただけでは、社員は動きません。
「紹介で10万円支給」と就業規則に書いただけで終わっている企業は意外と多いです。
しかし、社員側からすると「どの職種を募集しているのか分からない」「誰に紹介すればいいのか分からない」「選考フローが見えない」という状態になりやすく、結果として制度が形骸化してしまいます。
リファラル採用は、社内周知や継続的なコミュニケーションが非常に重要です。募集背景や求める人物像を定期的に共有し、「紹介しやすい空気」を作ることが成功のポイントになります。
採用基準が曖昧な会社
誰でも紹介OKの状態になると、ミスマッチ採用が増えやすくなります。
リファラル採用では「知人だから」という理由だけで選考が甘くなるケースがあります。しかし、紹介者への配慮を優先しすぎると、現場とのミスマッチが起きやすくなります。
特に以下のような状態は危険です。
- 紹介者の顔を立てて不採用にしづらい
- スキル確認が甘くなる
- カルチャーマッチを見ていない
- 通常採用より選考が簡単になっている
結果として、早期離職や現場トラブルにつながるケースも少なくありません。リファラル採用でも、採用基準は通常採用と同じ水準で運用することが重要です。
採用コスト削減目的だけで導入している会社
「人材紹介会社が高いから」という理由だけで導入すると、失敗しやすいです。
確かにリファラル採用は、成功すれば採用コストを抑えやすい手法です。しかし、コスト削減だけを目的にすると、社員側に「会社都合」が透けて見えます。
特に「紹介してくれ」「人が足りない」と圧をかけすぎると、社員が負担に感じて逆効果になることもあります。本来、リファラル採用は「一緒に働きたい人を紹介したくなる会社」を作ることが前提です。
短期的な採用数だけを追うのではなく、中長期的な組織づくりとして考えることが重要でしょう。
実際に問題視されたリファラル採用事例
リファラル採用は、制度設計を間違えると「実質的な人材紹介業」と判断されるリスクがあります。
特に問題になりやすいのは、「高額報酬」「社外紹介の常態化」「反復継続性」の3つです。
実際、過去には労働局から指摘を受けたり、法的リスクを懸念して制度を見直した企業も存在します。ここでは、リファラル採用で注意したい典型的な事例を紹介します。
高額インセンティブで問題視されたケース
紹介報酬が高額すぎると、実質的な人材紹介業と見なされるリスクがあります。
リファラル採用で最も注意されやすいのが、高額すぎる紹介報酬です。例えば「紹介して入社したら50万円」「半年定着でさらに50万円」など、合計100万円近いインセンティブを設定しているケースがあります。
もちろん違法と断定されるわけではありません。しかし、金額が高額になるほど「単なる社内紹介制度ではなく、人材紹介ビジネスに近いのでは?」と見られやすくなります。
特にエンジニア採用やハイクラス採用では採用難から報酬が高騰しやすく「友人紹介で副業化している社員」が出てくるケースもあります。
リファラル採用はあくまで「社員協力型の採用活動」です。紹介による利益獲得が主目的に見える制度設計は避けたほうが安全でしょう。
SNSで継続的に紹介募集していたケース
SNSで不特定多数へ紹介募集を続けると、人材紹介業に近い扱いになる可能性があります。
最近はX(旧Twitter)やLinkedInで「弊社紹介できます」「入社で報酬出ます」と投稿するケースも増えています。
しかし、不特定多数に向けて継続的に募集を行うと、単なる社員紹介ではなく「職業紹介行為」に近づいていきます。特に注意したいのが、以下のようなケースです。
- SNSで継続的に紹介募集をしている
- DM経由で求職者を集めている
- 紹介を目的にアカウント運用している
- 複数社へ人材を紹介している
こうした状態になると「個人で人材紹介業をしている」と解釈されるリスクもゼロではありません。
実際、リファラル採用は「知人紹介」の範囲だから成立している側面があります。SNS経由で広く募集を始めると、その前提が崩れやすくなるため注意が必要です。
社外紹介を常態化していたケース
社外の人へ継続的に紹介報酬を支払うと、人材紹介会社と同じ役割と判断されやすくなります。
「社員以外からも紹介歓迎」にすると、一気にグレーゾーンへ近づきます。採用担当者としては紹介数を増やしたくなりますが、社外の人に継続的に報酬を支払う仕組みは、人材紹介会社との違いが曖昧になりやすいです。
例えば、以下のような運用は危険視されやすいでしょう。
- 毎月同じ人物から紹介を受けている
- 紹介専用フォームを一般公開している
- 紹介者と継続的にやり取りしている
- 紹介件数に応じて報酬アップしている
この状態になると、単発の謝礼ではなく、継続的な職業紹介と見なされる可能性があります。
特に地方企業やベンチャー企業では「知り合い経由なら全部OK」と運用が緩くなりがちですが、制度が広がるほど法的リスクも増えるため注意が必要です。
就業規則に記載されていなかったケース
リファラル採用は、就業規則や賃金規程に明文化しておかないと社内トラブルになりやすいです。
実際「聞いていた金額と違う」「誰を紹介したら対象になるのか曖昧」「試用期間中に辞めた場合は?」など、社内トラブルになるケースは少なくありません。
特に危険なのは、採用担当者の裁量だけで紹介報酬を決めているケースです。制度化されていないリファラル採用は、社員から見れば不公平な裏ルールにも見えてしまいます。
そのため、紹介報酬を導入する場合は、以下を必ず明文化しましょう。
- 対象職種
- 支給条件
- 支給タイミング
- 対象外条件
- 金額
リファラル採用は「採用施策」であると同時に、「社内制度」でもあります。採用成功だけを見るのではなく、社内公平性まで含めて設計することが重要です。
まとめ
リファラル採用は、うまく機能すれば採用コストを抑えながら、自社にマッチした人材を採用できる強力な手法です。実際、求人広告だけでは採用できない層にアプローチできる点は大きなメリットと言えるでしょう。
しかし一方で「紹介したら現金支給」「社外からも紹介歓迎」といった制度を安易に設計すると、職業安定法や有料職業紹介との境界が曖昧になり、後からトラブルになるケースもあります。
特に重要なのは、単なる紹介制度なのか、生業としての人材紹介なのかを疑われない制度設計にすることです。
そのためには、就業規則や賃金規程への明記、報酬額の妥当性、支払い条件の整理、社外紹介ルールの明文化など、最初の設計段階が非常に重要になります。
また、リファラル採用は制度だけ作っても成功しません。社員満足度が低い会社では、そもそも「知人を紹介したい」と思われにくいからです。
法律面だけでなく、社内文化や運用フローまで含めて整備することで、初めて継続的に機能する採用施策になります。導入前には、社労士や採用支援会社など専門家へ相談しながら進めるのが安全でしょう。
参照:職業紹介事業の業務運営要領-厚生労働省
参考:リファラル採用の紹介報酬は必要?報酬相場や注意点、注意すべき法律も解説 | ピタリク


























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