入社する前に必ずと言っていいほど取り交わす文書が、雇用契約書です。正社員に限らず契約社員やアルバイト・パートでも基本的には取り交わします。雇用契約書は労働条件を記載する書類なので、会社によって書く内容はそれぞれになります。アルバイト採用をする前に気をつけたい雇用契約書(労働条件通知書)のポイントをまとめました。
目次
雇用契約書とは
雇用契約書(こようけいやくしょ)とは、雇用主と使用者との間で労働条件を明確にするために交わす契約書です。雇用契約書は、労働契約書、労働条件通知書とも言います。
類似するものに労働条件通知書があります。労働条件通知書は、雇用主が一方的に労働条件を使用者に通知するもので、主に使用者の権利について書かれているものが多いのに対し、雇用契約書は、双方が署名捺印する必要があります。
雇用契約書のメリット
一番のメリットは労務トラブルを未然に防げる点です。雇用された側と採用した側が揉める原因は、給与、休日休暇、残業手当などの様々な労働条件を口頭で説明し、後で「言った・言わない(聞いてない)」の状況になってしまうときです。
雇用契約書をお互い取り交わしていれば従業員も労働条件を確認して押印するため知らなかったとか聞いていないということにはなりません。雇用契約書には労務トラブルを未然に防ぐ効果があります。雇用契約書の控えは必ず相手に渡しましょう。
雇用契約書と労働契約書の違い
雇用契約書と労働契約書というのは、ほぼ同じように使われていますが、厳密には異なります。雇用契約書は民法を根拠にしており、労働契約書は労働契約法を根拠にしています。
厳密には異なるわけですが、一般的にはかなり細かな違いになるため、雇用契約書=労働契約書として扱っている会社も多いです。基本的には片方のみ用意すればOKで、両方用意する必要はありません。多くの企業は労務トラブル防止のため使用者・労働者双方で確認・合意が必要な雇用契約書を用意しています。
労働契約書がない会社でも書面交付の義務はある
会社にとって労働契約は必須のものですが、労働契約書自体は必須ではありません。アルバイトの採用の場合、労働契約書がない会社も多いですが、労働契約書がないという会社でも法令違反にはなりません。しかし、法令では会社は雇用の際に労働条件を記載した書面交付の義務(労働基準法第15条第1項)はあります。
少しややこしいですよね。例えば就業規則だけある場合が該当します。法律上では雇用契約時に就業規則を交付することでも、明示したものと認められます。また後述する書かなければいけない項目においても、雇用契約書に「別紙就業規則による」旨を記載し、就業規則を交付すれば問題ないとされています。難しい話になってしまいましたがベストなのは普通に雇用契約書を作成することです。
書類の名前は必ずしも雇用契約書でなくてもよい
労働基準法で定められている労働条件を明示する書類の名称は、明示が義務づけられている項目が全てきちんと記載されていれば必ず「雇用契約書」という名称でなければならないというわけではありません。ただ一般的には「雇用契約書」とするのがほとんどです。「雇用契約書」の他にも「労働条件通知書」という名称で書面を交付されるケースも多くあります。
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雇用契約書の記載事項
労働基準法では労働条件の一部について、明示しなければならない項目が決められています。賃金・労働時間などの「絶対的明示事項」(昇給に関する事項を除き書面の交付が必要)と「相対的明示事項」(定めがある場合に明示が必要。口頭での明示も可)とに分けられます。絶対的明示事項には勤務時間、休憩、休日、休暇、賃金、退職に関することが当てはまります。
相対的必要記載事項には会社で独自に定めているもの(退職手当、賞与等)があれば、記載しなければならないこととなっています。つまり 『雇用形態』『雇用期間』『就業時間』『時間外労働』『休日休暇』『賃金形態』『保険』などの基本的な労働条件の記載事項が必要になります。
※法律以外の記載も問題ありません。多くの企業が法律以外にも会社独自の契約事項を盛り込んだ「雇用契約書」を用意して従業員と取り交わしています。
書面で明示しなければならない項目(絶対的明示事項)
1.労働契約の期間に関する事項
→契約期間の定めがある場合にはその期間、ない場合にはその旨
2.労働契約期間の定めがある場合→更新の有無および更新の基準
3.就業の場所及び従事する業務に関する事項
4.始業及び終業の時刻、所定労働時間を越える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに交代制の就業転換に関する事項
5.賃金(退職手当及び8に掲げるものを除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締め切り及び支払の時期、昇給に関する事項
6.退職に関する事項(解雇の事由を含む)
定めがある場合に明示が必要な項目(相対的明示事項)
7 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
8 臨時に支払われる賃金、賞与及び一箇月を超える期間の出勤成績によつて支給される精勤手当、一箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当 、一箇月を超える期間にわたる事由によつて算定される奨励加給又は能率手当並びに最低賃金額に関する事項
9 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
10 安全及び衛生に関する事項 (パートタイマーについては努力義務)
11 職業訓練に関する事項 (パートタイマーについては努力義務)
12 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
13 表彰及び制裁に関する事項
14 休職に関する事項 (パートタイマーについては努力義務)
無断欠勤の規定も追加可能
スタッフの無断欠勤が続き、連絡が取れない状況になっても、契約書や就業規則に「無断欠勤が継続して2週間をすぎれば退職とする。」などと書いておけば、本人の承諾を得ずに退職(もしくは解雇処分)とすることが可能になります。
記載事項の中には「無断欠勤は〜円の減給処分」と懲戒処分(反則金や違反金は違法)について書くことも可能です。ただし労働者に対して減給の制裁を定める場合は、『総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない』と定められています。
最低時給や労働時間は法律で定められています。無断欠勤のせいで損害が発生していたらその分の賠償を求める権利が雇用主側には存在しますが、労働者にとってあからさまに不利な契約書、労働条件は法律上も無効になります。損害賠償もアルバイト契約の場合は勝訴できる可能性は低く、違法な場合は雇用主(バイト先)が罰せられる可能性もありますので注意が必要です。
違反した際の罰則
雇用する側の企業が労働条件を明示しなかった場合でも労働契約自体は成立します。しかし企業側には未交付の罰則として30万円以下の罰金が処せられます。(労働基準法第120条第1号)パートの場合は過料(かりょう)として+10万円がかかります。雇用契約書は労働契約法を根拠法としていますが労働契約法には、そもそも罰則がありませんので雇用契約書を交わさなくても罰則はありません。
無料で利用できる雛型テンプレート
労働条件通知書(厚生労働省)
労働条件通知書(シンプルver)
弊社おススメのシンプルなテンプレートと厚生労働省が推奨している労働条件通知書の文書テンプレート(書き方・例文・文例と書式・様式・フォーマットのひな形)です。これから利用するという人は無料ですので自由に活用してください。
下記の厚生労働省HPのページ下段に表示されている様式名「労働条件通知書」の列から同じファイルが無料でダウンロード可能です。Word形式のため自社用にカスタマイズすることが可能です。上のファイルは一般労働者用ですが厚生労働省のHPでは短時間労働者用や派遣労働者用や建設労働者用など様々な様式があります。
主要様式ダウンロードコーナー|厚生労働省
就業規則の予備知識
就業規則は、10人以上の社員がいる会社では作成を義務づけられています。逆に言うと、10人未満なら作る必要はないので、存在しない会社も多くあります。また正社員用の就業規則はあっても、アルバイト・パートはないという会社もあります。
就業規則は正社員とアルバイトを同じ内容にすることも可能ですが、雇用形態に応じて就業規則を作成したほうがよりわかりやすいです。具体的な処遇条件も違うと思いますので、アルバイト専用の就業規則を作成できればベストです。
まとめ
雇用契約書も労働条件通知書も、法律上、有効なものとなるため、なくさないように大切に保管しておきましょう。合わせて就業規則も作成しておくことをおススメします。気になる人は労務管理の専門家である社会保険労務士に一度相談してみましょう!