Wantedly運営のウォンテッドリー株式会社が2017年9月14日に上場しました。
そこで、8月の上場承認から炎上までの経緯と上場後に期待している内容についてまとめました。
目次
上場承認における記事が炎上の発端
僕的にはやりがい搾取感が否めないですね。聞くところによると某執行役員は年収700万円に満たないとか。。。また、これは噂レベルですが、ウォンテッドリーの社内の人材流動性(入社→離職)は比較的高いらしく、創業7年の会社で平均在籍期間1.5年と少し短いのはこういうところに起因しているのかもしれません。
出典:Wantedly(ウォンテッドリー)のIPOがいろいろ凄いので考察
INST代表取締役の石野幸助氏のブログ記事です。ダウンラウンドでの新規上場や株主構成を指摘し、「やりがい搾取感が否めない」といったエッジのきいた文章で注目を集めました。全体的に批判的見解であったため賛否両論が起きましたが、現役の経営者目線の鋭い意見として納得する人が多かったと思います。
NewsPicksではLITALICO(リタリコ) 取締役の中俣博之氏が「会社経営したことのない人の目線」というコメントを残したり、THOUSAND JAPAN株式会社の真部大河氏が「disってる自称インテリは一度会社作って上場までしてから言って欲しいね。」というコメント(※)が印象的でした。
※補足ですが執筆者の石野さんは会社経営しています。コメントは高度なギャグなのか悩みました。自称インテリは知識人という意味なのか㈱インテリジェンスという意味なのか不明なので、ややこしいですね。もしもインテリジェンスであれば次回以降はインテと略称して頂けると助かります。
「これではココロオドラない」という名言もあり、面白くも読みやすい内容でした。最後にオチとして「WantedlyにWanted(指名手配)されるかもしれない」と書かれていますが、これが現実になるとは誰も予想できませんでした…。
仲氏の株式保有比率68.98%(想定公募価格での保有時価27億円)に対して、ストックオプションの付与が、取締役CTOの川崎氏は2.81%(1.2億円)、執行役員の久保氏は0.23%(920万円)、同じく執行役員の藤本氏は0.15%(600万円)、吉田氏は0.07%(280万円)、大谷氏は0.03%(120万円)となっています。
トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社の小林正典氏のブログ記事です。現役CFO(最高財務責任者)の視点らしく、ダウンラウンドによるIPOや従業員へのストックオプションの発行など資本政策や金融観点について詳しく書かれています。小林氏曰く一定の合理性・戦略性があると指摘しています。
上場判断において擁護的立場から書かれていますが、創業者の貢献度については難しいところです。考え方次第ではゼロからの創業であれば貢献度100%と考える事も出来るため、従業員へのストックオプション(新株予約権)付与はする必要がないとも捉えることができます。そうするとベンチャーで働く魅力が減るのは事実です。
ウォンテッドリーが本気でWanted(指名手配)
この記事をtwitterとかで共有するとDMCA違反でツイートを消されまくるという面白事例が発生しているようで。となると俺的には「著作権侵害せずに女社長の画像を掲載する」というチャレンジをしたいわけで。となるとまあこうですよね。
出典:WantedlyがDMCAを悪用してウォンテッドリーしているという話
http://kyoumoe.hatenablog.com/entry/20170825/1503621955
8月24日夜20時過ぎにウォンテッドリー株式会社が同社のブログ記事をDMCA(デジタル・ミレニアム著作権法)申請しました。それに言及している個人のtweetに対してもDMCAを乱発し、削除されたTwitterアカウント管理者が公開・共有したことで表沙汰になりました。これによりネット民がこぞってINST社の記事をツイートする事件に発展。タイムラインが同記事で埋め尽くされました。
一部ブログ記事で利用されていた画像に関しまして、有識者に意見をいただきながら社内で協議した結果、当社が著作権を有する画像の無断使用はやめていただきたいとの判断に至りました。当社からGoogle、Twitterに著作権侵害による削除申請を行った次第です。
公式サイトのIRにて発表する事態にまで発展。記事内容はともかく顔写真を堂々と晒されるのは好意的に受け止めるのは難しいでしょう。ただし2ちゃんねるのような匿名掲示板ならいざ知れず、今回の投稿者は明らかにされているわけなので直接連絡をすれば写真は削除してくれたと思います。
これに対してネット上では「言論を封じるために、DMCAに基づいた削除を行ったのではないか」という声が上がった。以前、「同様の手段を用いて自社の悪評を消したのではないか」と激しく批判された別の会社もあった。上場が決まり社会の公器たるべき企業として果たして正しい対応だったのか、と問う声が大きい。
出典:ネットだからこそ健全な議論を——ウォンテッドリー批判記事騒動について双方に聞いた
その後も騒ぎは鎮火せず大きくなった結果、テクノロジーメディア「TechCrunch」だけでなく、ITmedia NEWSでも「WantedlyのIPO批判記事、Google検索から消える「写真を無断利用された」とWantedlyが削除申し立て」と配信され、注目度はさらに集まりました。
自社にとってマイナスとなる記事に対する悪評封じ、DMCA申請の悪用だとして非難されていることについて大袈裟に騒ぎすぎではないかという意見も周囲ではありましたが、これが容認されると表現の自由が規制されることになります。例えばブラック企業がパワハラや違法残業などのネガティブなニュース報道も削除・検閲・規制できる問題が発生します。
変わった切り口で経済情報を発信するブログ「市況かぶ全力2階建」でも「仲暁子のウォンテッドリー、悪評に対する企業対応で上場前から白煙」と取り上げられており、「Wantedlyの悪口書くとWANTEDされて消されるんですか…」「吉田祐輔氏は0.07%の保有率でこの仕事をやるのかと半分感心した」というコメントを紹介しています。
DMCA申請は画像の著作権違反を問題視してとのことですが、インターネット上で多く流布されているような画像へのDMCA申請であって、実際は悪評隠蔽の意図であることは明白です。(中略)あくまでも画像の無断利用を問題視しただけ、と主張しています。私はこれが許されるべきことではないと考えます。だれが見てもDMCAを悪用したにも関わらず、悪質な意図ではないと逃げ切ろうとする企業としての姿勢を疑います。
出典:DMCA悪用はなぜ問題なのか ウォンテッドリー社の悪評隠蔽事例
SEO業界で有名な辻正浩氏のブログでも取り上げられました。2016年にタイで問題行動を起こした株式会社DYMも同様にDMCA申請を利用して、Googleの検索結果から全裸で騒いで警察出動したという内容を消去しようとしました。どうして人材企業ばかりが利用するのでしょうか…。
元インターン生もやりがい搾取について言及
Twitterでは「今だから言えるけどウォンテッドリーでインターンしてたときは日当8,000円で9:30〜23:30とかで働かされてました」と口コミ情報が拡散されました。はてな匿名ダイアリーでも「俺もwantedlyでインターンをしていたが」と続々と実態が表面化されました。
大学生を最低賃金以下で働かせていることについて「ベンチャー企業はどこも同じだ」と意見があります。しかし、他がやっているから自社もやっていい理由にはなりません。ところで大学生の業務内容が気になります。同社のインターンシップ募集職種ではカスタマーサポートがありますが、まさか労働基準法など知識が必要な審査判断などの業務を素人の大学生がやっていたのでしょうか。
ベンチャー企業の入社理由や志望動機にも影響
売上が下がったとか新サービスがユーザー集まらなくて撤退したとか借入金で社員に2倍の給料払ったら倒産したとかそういうことより断然カッコ悪い。ここまで火がついているのもネットの可能性を広げようという事業内容の会社が逆にネットの可能性を狭めるようなことをやってしまったからだ。(ミッションどこいった!)
出典:Wantedlyが今後いちばん苦労することになるのは、たぶん採用だと思う。だって、「カッコ良さ」以外にベンチャーに入社する理由なんてないんだから。
現役のベンチャー企業の採用担当者が書いたブログ記事です。この記事でも触れられている通り今後数年間は間違いなく採用に苦戦するでしょう。本来は上場目的の一つに採用活動で有利になることが挙げられますが逆にマイナスになってしまいました。
たかが売上10億円の会社がマザーズ上場した程度で採用に有利になるのかと質問されたことがありますが、案外馬鹿に出来ないレベルで有利になります。新卒や中途採用で目に見えて応募数が増えることはないと思いますが、入社理由に「(上場しているから)安定していそう」と考える学生や、両親の納得感が違ってきます。大手企業との新規取引でも与信管理で迅速に話を進めることができます。
グレーゾーンな事業モデルを指摘され始める
求人媒体はその対象から外れるため明示義務はありませんが、求職者に対して適正な求人情報を提供し、入社後の契約条件の相違や、不利益を回避すべく、歴史的に全求連中心にガイドラインを整備してきました。私の立場は、労基法42条の趣旨はHR産業は広義に解釈し、求人媒体であったとしても、主要な労働条件(特に賃金、労働時間、雇用形態・期間、業務内容)は明示して、求職者を誘引すべきというものです。
少し鎮静化し始めたところジーニアス株式会社の三上俊輔氏から人材紹介会社の経営者ならではの指摘が入りました。Wantedlyでは時給や福利厚生の表記が禁止されていますが、実はかなりグレー。ウォンテッドリー株式会社はあくまでもビジネスSNSであり、求人サイトではないと主張しています。採用百科事典『全国求人情報協会の不参加企業に問われる倫理観』でも触れていますが、この主張を認めてしまうとブラック企業の温床になりかねないと指摘する専門家もいます。
・《急募》自社Webサービス 20代男性アカウントプランナー募集! 株式会社Smarprise
・話題の動画クリエイターとのコミュニケーションでチャレンジしたい女性募集!Bizcast
・高専集団の男10人と働ける伝説の女デザイナーウォンテッド!!FULLER株式会社
出典:Wantedlyは雇用対策法、男女雇用機会均等法、職業安定法に違反してる?
Wantedly内では年齢制限や性別制限など無法地帯と化しています。まさに世紀末。男女差別している掲載企業も悪いですが、プラットフォームとしても責任追及すべき内容です。掲載企業側からすると掲載料金は低価格で良い求人サイトかもしれませんが、求人メディアの価値はアクセス数だけではなく中立的立場から正確な求人情報の提供にあります。
現在の仕組みでは雇用条件が明かされないユーザー(求職者)側が不利な立場にいます。他にも色々と問題点があり真面目に採用活動をしている企業が損をする仕組みになってほしくないと思います。
雰囲気の良い会社の募集を見て正社員面接を受けに行ったら実は募集はアルバイトだったという心の踊り方のベクトルも許されることになります。(中略)求人している企業と、求職している人とをあっせんしていないので、情報提供に過ぎず、職業紹介にはあたらないため、給与や労働時間や正社員待遇かどうかなどは情報掲載させる必要が無いのだ、というロジックのようです。
出典:Wantedly社の求人事業は、なぜ給与、勤務時間などが明示されないのか
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20170913-00075723/
上場前日に実業家であり有名ブロガーの山本一郎砲が炸裂。周囲でもこの記事をきっかけに退会する人をちらほら見かけました。もしも本当にビジネスSNSまたは採用後方支援ツールとして考えているなら、スカウト機能という名称・表現が誤解を与えるので即刻中止すべきかと思います。
ツイートで「マッチングサイトに名称変更したほうがいいんじゃないか」「スカウトなんて言葉を使わずに、コーヒー飲みに来ませんか?にすればいい」という意見をもらいましたが、凄く同意しました。
Wantedlyの特徴が転職顕在層よりも転職潜在層向けなので緩い応募者が多いです。エントリー理由は「働きたい」よりも「オフィスに行きたい」とか「話を聞きたい」といった内容です。この応募者属性を勘違いして失敗している人事が多く見受けられますので参考までに。
Wantedlyの掲載企業はスタートアップ企業が多いですが、キラキラ感で勝負している企業が集まっている傾向にあります。月給30万円と18万円の募集が同じ土俵で勝負しなければいけないわけですから、福利厚生が書けないとなると自然に企業理念やビジョンのアピールが中心になります。特に30代が見るとキラキラしすぎていると思うようですが、こうした理由からです。
キラキラ感を過剰演出すると確かに短期的な応募効果は期待できる可能性がありますが、一方で現実とのギャップが発生しやすく、勤務実態との落差が激しいと高離職率にも繋がります。給与待遇面で勝負できる企業は(応募者の質は置いといて)普通の転職サイトや転職エージェント経由で応募者が集まります。
参照:上場前から白煙の仲暁子社長の上場会見キャンセルで鎮火に尽力-市況かぶ全力2階建
参照:上場会見キャンセルへの批判を物ともせず時価総額200億円超デビュー-市況かぶ全力2階建
推測される現在の課題と未来への期待
「成長可能性に関する説明資料 」で公表されていますが経営陣には人材業界出身者がいません。新規事業の場合は先入観の無い素人目線も大切ですが、上場後になると求められる役割も変化しますので、組織全体を強化するために一人くらいは求人関連で現場経験豊富な人を参画させても良いと思います。
これまで同社には職業安定法・労働基準法・男女雇用機会均等法の順守に疎いイメージがありました。グレーゾーンの事業モデルは一部の業界関係者しか問題視されてきませんでしたが、上場にあたり一気に問題点が噴出。男女差別している募集が野放しにされている通り、本当に弱いのが現実のようです。審査部を設置して真面目に掲載審査している企業を見習ってほしいと思います。
よってたかって全員で同社をイジメているように見える人もいると思いますが、上場すると社会的責任も増えますので慎重に行動しなければいけないことも出てきます。共感での採用をコンセプトとしているのは素晴らしいですが、コンセプトだけが先行するのではなく、社会的責任を意識してクオリティの維持に真面目に取り組んでほしいと思います。
まとめ
今回の一連の騒動ですが様々な要因で炎上したことがわかります。反省すべきところは反省し、一歩進んだ社内改革を推し進め、内部統制をしっかりおこない、サイトの健全化そして労働市場の活性化に向けて頑張ってほしいと思います。
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