【パワハラの種類や労災認定基準の全まとめ】職場でとるべき行動・対策・裁判事例

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社会問題化しているパワハラ対策をするためには、パワハラとは何かについて正しく理解する必要があります。パワハラの定義・種類・対処法、訴える前にやるべきこと、裁判の判例、労災認定に必要な要件、最終手段である退職についてなど、パワハラ対策について徹底解説します。

パワハラの種類は?パワハラに屈しないための対策について

セクハラ、モラハラ、マタハラなど、職場には様々なハラスメントが存在しており社会問題化しています。中でも男女関係なく被害者になりえるのが、上司と部下の間で行われるパワーハラスメントです。企業側も対策をしているとはいうものの、2002年(平成 14 年度)には約 6,600 件であったものが、2010年(平成 22 年度)には約 39,400 件と、年々急速に増加している実態があります。

パワハラは注意や指導との線引きが難しいため、加害者がパワハラと意識せずに発言・行動している場合や、被害者がパワハラを相談できずに、ひたすら耐えてしまうということもあり、表面化していないパワハラ問題はどこの職場にも潜んでいるのです。

パワハラの被害者の中には、精神を病み休職や退職を余儀なくされる人もいる一方で、自分の能力のなさやルール違反を棚に上げ、多少の叱責や処罰に対して「パワハラだ!」と大げさに騒ぎ立てる新入社員などもいます。どちらが悪いのか難しい場合もあるため、その対応には企業側も頭を抱えているというのが実情です。

職場の人間関係に悩んでいるという人、ちょっと指導が行き過ぎではないか?と感じている人はパワハラとは具体的にどういう行為なのか?どんな種類があるのか?を正しく理解し、パワハラに屈しないための対策法を身につけましょう。「退職」という最終手段の前に、やるべきことはたくさんあります。

パワハラの定義とは?

パワハラの意味

2012年1月、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」によれば、職場のパワーハラスメントとは「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」と定義されています。

職場での優位性

パワーハラスメントの言葉通り、力を持つ上司が部下に対して嫌がらせやいじめを行うことがパワハラだと思いがちですが、実はそれだけではありません。

先輩と後輩の間柄、同僚同士、ときには部下から上司に向けて行われる嫌がらせもパワハラになることがあります。職場での優位性とは、単に社内的地位を指すものではなく、専門知識の有無、業務の経験値、人間関係における優位性などもそれにあたります。

例えば、社内異動でまったく知識のない部署に配属になり、そこで経験値が豊富な同期や後輩から怒鳴られたり邪魔者扱いされるようなケースもパワハラと認定されるこがあります。

業務の適正な範囲

厳しい叱責や指導も、業務上の適正範囲であればパワハラとは認められません。セクハラ・パワハラと一括りで語られることが多いため、誤解している人が多いのですが、パワハラは、セクハラのように「受けた人がどう感じたか」ということが判断の基準になるわけではありません。「怒られてショックを受けた」だけでは、パワハラには当たらないのです。

また、厚生労働省の定義には「強制」という要件もありません。「強制的な業務命令」というだけでは、パワハラにならないということになります。「どこまでが業務の適正範囲なのか」は、職場によって違うため、企業側がその範疇を明確にする取り組みをしていく必要があります。

精神的・身体的苦痛と職場環境の悪化

精神的・身体的苦痛とはどんなものか?暴力行為は別として、「一度怒鳴られた」ぐらいでは、パワハラと認められることはないでしょう。怒鳴る、机をたたくなどの威嚇行為や、相手に精神的なダメージを与えるような言葉による暴力が、日常化していて継続的に行われるような場合は、パワハラと認められることが多いようです。

また、パワハラが行われている職場では、被害者本人だけではなく、周囲の人も萎縮したり閉塞感を感じるようになります。加害者の行為により、仕事に集中できない状態が継続するようであれば、職場環境の悪化に繋がります。

パワハラには実は法律的根拠がない?

パワハラは、ある程度のガイドラインが整備されているものの、パワハラを規定する明確な法律というものは今のところありません。セクハラであれば「男女雇用機会均等法」が法的根拠となりますが、パワハラには法律的根拠は存在しないということになります。

そのため社内でパワハラ行為が発覚した場合は、事実関係や状況をしっかり把握し、社内の共通認識やこれまでの判例を元に判断していく必要があります。

上司のパワハラの種類と対処法

厚生労働省のワーキング・グループ報告によると、パワハラには様々な種類があるとされています。どんなパワハラがあって、どのように対処すれば良いのかまとめました。

仲間はずれ型

無視や仲間はずれなど、まるで小学生のようなパワハラが行われることもよくあるようです。必要な情報が回ってこない、忘年会や送別会など職場の全員が参加するような業務外の行事に呼ばれない、話しかけても無視される、隣にいるにもかかわらず、わざと別の人から連絡させるなど、個人を阻害するようなパワハラを「人間関係切り離し型」と呼んでいます。

業務をめぐって上司と口論になった後、その報復としてこのような行為が行われることもあれば、古くから勤務している人、いわゆる「お局様」の号令のもとに行われることもありますね。

このようなケースでは、まずは自分の行動を振り返ってみてください。もしかすると、自分のほうが壁を作ってしまっていたり、周囲から浮くような問題行動を自分がしていることもあります。思い当たることがまったくないのであれば、直属の上司(上司のパワハラであれば、その上の上司)に相談してみましょう。

言葉の暴力型

恐らく一番被害が多いと思われるのが、この精神的攻撃型のパワハラです。いわゆる言葉の暴力で脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言などがこれにあたります。

具体的には、「お前なんて、いつでも辞めさせることができるんだぞ」「これが出来なければ、地方に飛ばすぞ」などのような脅迫の言葉、「小学生並みだな」「どうせ帰ってもやることがないんだから残業しろ」のような侮辱、名誉棄損の言葉、「馬鹿」「死ね」「殺す」などのひどい暴言などです。

これらの言葉は、業務中の指示や命令の中で言われたことであっても、業務上に必要な言葉とは到底考えられず、パワハラに当たると考えられます。

このような言葉を毎日聞かされれば、誰でも精神的に弱ってしまうものです。うつ病を発症したり、自殺に追い込まれるようなケースも実際に起こっています。このような場合も証拠を残しておけば、名誉棄損で訴えることもできます。

嫌味程度のことであれば、上司の言葉を「気にしない」「右から左へ受け流す」という方法もあります。相手はあなたが凹んでいる姿を見るのを楽しんでいるだけかもしれません。あなたがダメージを受けていないと知れば、攻撃をやめる可能性もあります。

さらに周囲の人を味方につけて、「あ~、あの人また何か言ってるよ…」と、加害者に対して職場全体が白い目を向けるようになれば、さらに効果的でしょう。

暴力行為型

社員の身体に危害を加えるタイプの身体攻撃型パワハラがこれにあたります。単純な暴力だけでなく、大きな音を出して威嚇したりすることも身体攻撃型パワハラに含まれます。

実際に「灰皿を投げつけられて眉間に大怪我をした」という例も報告されています。ここまでの事態にならなくても、丸めたポスターで叩く、紙屑を投げつけるなどの威嚇行為はパワハラ行為にあたります。このような上司の元では、自分が直接的な被害は受けていなくても、周囲の人間はみんな萎縮してしまい、誰も何も言えず職場環境は悪化の一途をたどることになります。

このような暴力行為は絶対にあってはならないことです。ひどい場合は、刑事事件に発展する可能性だってあるのです。パワハラを立証するためには、まずは証拠集めです。「いつ、どこで、どのような行為を受けたか」を記録しておきましょう。ボイスレコーダーへの録音が最も有効ですが、同僚に証人になってもらうのもよいと思います。

これらをもとに、まずは人事部に相談してみましょう。「会社は頼りにならない」と思うのなら、労働基準監督署などに報告します。少し時間はかかりますが、外部の人間によって解決されるケースも多くあります。

懲罰型

終業時間間近になってから、大量の仕事を押し付けてきたり、本来の業務を妨害するような不要な仕事を任せたりすることを過大な要求型パワハラと言います。新人に対して到底ムリなノルマや目標を課せたり、懲罰的な意味合いで就業規則の書き写しをさせたり、始末書を何枚も書かせる行為もこれに当たります。

社員の業務量は、その会社や部署によっても異なるため、単に仕事量が多いというだけではパワハラとは言えませんが、明らかに能力を超えたムリな指示をしたり、他の人に比べて著しく残業時間が長いという場合は、パワハラの可能性が高くなります。

このようなパワハラで気をつけたいのが、残業代や休日出勤の手当が正しく支給されているかという点です。「お前の能力が低いから残業になるんだ」という上司の言い分で賃金が支払われていないケースも多いようです。就業規則や社内規定などをきちんと把握し、しかるべき部署に相談しましょう。

窓際型

本来の仕事を取り上げたり、新人に何も教えないで放置するなど、会社にいても何もすることがない「社内ニート」のような状態にしてしまうのが、過小な要求型パワハラです。他の仕事を一切させずに、社内の掃除や書類整理、コピー取りだけを延々とやらされるなど、能力とかけ離れた仕事しかさせないというのも、これに該当します。

ミスや業務規程違反の懲罰としての一時的な対処であればパワハラとは言えませんが、長期にわたり続くようであればパワハラと言えるでしょう。

ただし、このケースも人間関係の切り離し型と同じで、本人の仕事に対する姿勢や能力に問題がある場合もあります。また、退職勧奨の「追い出し部屋」も似たような状況に追い込まれます。このような場合は、人事部などに相談しても無意味なので、第三者機関に相談したほうが良いでしょう。

強要型

非効率的にもかかわらず、自分のやり方を譲らないタイプの上司に見られます。自分のやり方と違う方法で部下が仕事をしていると機嫌が悪くなり、やり方を変えるように強制されます。また、それによって仕事の能率が低下すると、部下のせいにしたりします。

対処法は、上司の上司に相談するようにすると良いでしょう。「どう考えてもこのやり方のほうが効率がよいのですが、上司のやり方を強要されるので仕事の能率が上がりません」と相談してみましょう。会社にとっては能率の良い仕事の方が当然良いわけですから、聞き入れてもらえることでしょう。

介入型

付き合っている相手のことをしつこく聞いてきたり、私生活や休日の予定を聞いてきたり、個人の携帯電話やロッカーの中をのぞき見するなど、個人のプライバシーを侵害するような行為を個の侵害型パワハラと言います。お見合い話を勝手に進めたり、信仰している宗教をけなしたりするのもこれにあたります。

有給休暇を取得するにあたって、旅行の行き先や誰と行くのか、宿泊先はどこかなどをしつこく尋ねた挙句に、年次有給休暇の取得も許可してくれなかったという例もあります。

有給休暇の取得については、本来社員がその理由を明示する必要はありませんが、業務上支障が出る場合は、管理者の判断で取得日を変更するよう指示することはできます。この点については、業務上必要な措置なのか、単なる嫌がらせなのかによって判断は分かれます。

個の侵害型は、女性に対して行われることが多く、その場合はセクハラに該当することにもなります。毅然とした態度で「プライバシーの侵害はやめてほしい」ということを伝えましょう。

上司からパワハラを受けたときー訴える前にやるべき対策

「もう我慢できない!上司を訴えたい!」と思うこともあるでしょう。しかし訴訟を起こすということは、「リスクを伴う」ことを覚えておきましょう。まずは、金銭的なリスク。裁判になれば当然お金がかかります。さらに会社も社会的信用を失うことになり、業績にも影響が出るかもしれません。

それが原因で、勝訴しても会社にいずらくなって、結局退職せざるえなくなる場合もあります。パワハラを訴えることで得られる価値とはどんなモノでしょうか?冷静に見極める必要がありますね。短絡的に「訴える」という行動に出る前に、やるべきことを考えてみましょう。

ペコペコしたりおどおどしない!

パワハラを行うような人は、基本的に器が小さく他人を見下すことでしか自分の地位を確立できない人です。このような人は、相手が脅えたり、動揺したりする姿を見ると、さらに攻撃をエスカレートしてくることがあります。

上司と目が合うとさっと視線をそらしたり、何か聞かれても小さな声でしか答えられなかったり、キョロキョロと落ち着かない態度ばかりしていませんか?このような態度は相手をイラつかせることに繋がります。

まずは、「パワハラに屈しない」という強い意志を持つこと、理不尽なことを言われたらはっきりと「NO」を告げるなど、毅然とした態度で接しましょう。本来の仕事に集中して、ちゃんとした成果を出すことができれば、パワハラ上司も文句が言えなくなるでしょう。

少し勇気がいりますが、集めた証拠をもとにパワハラ加害者に直談判するという方法もあります。事実を突きつけ「このようなことはパワハラ行為に当たります。これ以上続くのであれば、しかるべき部署(第三者機関)に訴えます」と、自分の意志を伝えましょう。

ただしこれはもろ刃の剣で、状況をさらに悪化させる可能性もあります。このときの会話やその後の状況の変化などもきちんと記録しておきましょう。次のステップでの強力な証拠になります。

同僚に相談する

パワハラ上司がいる場合、自分だけがパワハラの被害にあっているとは限りません。同じ職場の同僚と話をしてみて、やはりパワハラに悩まされているようであれば、団結して上司に対抗したり、事前に回避するようにしましょう。

会話を録音する

裁判をするにせよ、会社に相談するにせよ、必ず証拠になるものが必要になります。いつ、誰に、何をされた(言われた)のか、その理由などを記録しておく必要があります。でも、自分の記録だけでは、「気にし過ぎでは?」と軽く流されてしまったり、「言った言わない」の論争で決着がつかないことがあります。

一番確実なのは、そのときの会話を録音しておくことです。今はスマホを使って録音することもできますし、ペン型のICレコーダーなどを利用すれば、相手に気づかれることなく録音を残すことが可能です。

また、メールやLINEなどの記録を残しておいたり、信頼できる人に証人になってもらったり、証拠を残すことを手伝ってもらえば、より信ぴょう性の高い証拠を集められるでしょう。もしも、パワハラが原因でケガをしたとか、ストレスによる頭痛、うつ病などの精神疾患で病院にいったような場合は、その診断書も取得しておきましょう。

人事に通達する

大手の企業であれば、社内にパワハラ・セクハラの相談窓口が必ずあるはずです。まずは証拠を持ってその窓口に相談するのが、ベストな方法です。

中小企業などで専門の窓口がない場合は、加害者の上司、人事部、組合などが相談先となります。この場合は、就業規則や服務規程など社内規則をしっかり把握しておくことが必要です。相談相手が事なかれ主義だったり、加害者とつながっているような場合は、うやむやにされたり、うまく丸めこまれてしまう可能性があります。

円満な解決を望むのであれば、パワハラがあなた個人の問題ではなく、会社全体の問題としてとらえてもらえるように人事部に働きかけるという方法があります。パワハラの実態を認識してもらい、社内の人にも「どう思う?」と問いかけ、味方を増やしていきましょう。社内全体にパワハラの認識が深まれば、事を大きくせずに、パワハラをやめさせることが出来るでしょう。

外部機関を頼る

社内で相談しても改善が見られない場合や、社内に相談する先がない場合は、外部機関に頼る方法もあります。いきなり労働基準監督署に駆け込むのではなく、相談がメインの窓口がいくつかありますので、そこで対処法の相談をしてみましょう。

「働く人のメンタルヘルスポータルサイト『こころの耳』」では、職場のメンタルヘルス対策の様々な情報が掲載されています。相談窓口についても多数掲載されていますので、自分にあった窓口を選ぶことができます。ここでは主なものを3つ紹介しましょう。

●働く人の悩みホットライン 03-5772-2183
職場、暮らし、家計など働くことに関する様々な悩みの相談窓口です。医療関係や法律相談は受付ていません。月~土の午後3時~午後8時まで受付。相談料は無料。

●こころほっとライン 0120-565-455
働く人のメンタルヘルス不調に関する相談窓口です。ストレスチェックの受検も行えます。祝日、年末年始を除く月・火/17:00~22:00、土・日/10:00~16:00。相談料は無料。

●法テラス 0570-078374
法的な相談ならこちら。弁護士や司法書士による無料相談を受け付けています。面談による相談も可能です。平日9:00~21:00 土曜9:00~17:00まで受付。相談料は無料。

明るい職場応援団を利用する

厚生労働省では、パワハラの専門サイトとして「明るい職場応援団」というサイトを開設しています。パワハラに悩む人に向けた情報から、管理者、人事担当に向けた情報まで記載されています。パワハラの裁判例やパワハラ対策のマニュアルなども掲載されていますので、ぜひ参考にしてください。

また、労基による助言、指導、あっせんなどを望む場合は、このサイトから管轄の総合労働相談コーナーを検索することができます。

あかるい職場応援団 -職場のパワーハラスメント(パワハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-

あかるい職場応援団は職場のパワーハラスメント(パワハラ)、いじめ・嫌がらせ問題の予防・解決に向けた情報提供のためのポータルサイトです。

パワハラの裁判例

パワハラ裁判の事例を2つ紹介します。誰のどんな行為が責任を問われるかを知ることは、パワハラ対策を考える上で非常に重要です。また、パワハラが認められないケースでは、何が問題であったのかを考えてみましょう。上で紹介した厚生労働省の「あかるい職場応援団」のサイトでは、様々な裁判の判例が掲載されていますので、自分のケースに近い判例を検索してみることをおススメします。

パワハラが認められた事例:誠昇会北本共済病院事件

Y病院に准看護師として入社したXさん(男性)。同病院にはA(男性)をはじめとする5人の先輩准看護師がいました。男性准看護師の間では一番先輩であるAが後輩を服従させる関係が継続しており、AからXに対し、次のようないじめや嫌がらせがありました。

・Aらの遊びに無理やりつき合わされる。
・Aの肩もみ、家の掃除などの雑用えお命じられ、送り迎えも強要されていた。
・Xが彼女とデート中に、仕事だと偽って病院に呼び戻したり、彼女あてに勝手にメールを送ったりした。
・社員旅行中の飲み会でアルコールを強要され、Xは急性アルコール中毒になった。
・「馬鹿」「死ね」「殺す」などの暴言が日常的に続き、嫌がらせメールなども送られていた。

このようなことが続き、Xさんは精神的なダメージを受け自殺。両親によって事損害賠償請求を提起されました。

判決では、A個人に対して損害賠償額1000万円の支払いを命じるとともに、Y病院にも安全配慮義務違反の債務不履として賠償を命じています。会社や上司が違法ないじめを認識していた場合はもちろんですが、「認識可能」と判断されれば安全配慮義務違反が生じるということになります。

パワハラが認められなかった事例:ホンダカーズA株式会社事件

被告(会社)に対して元従業員である原告が、先輩社員Dから指導の名の下に暴言、暴行等のパワーハラスメントを受けたとして、会社に対し、不法行為又は労働契約上の安全配慮義務違反に基づき慰謝料の支払いを求めた事案です。

原告の主張は以下のとおり。

・先輩社員Dは自分のミスを責任転嫁し「お前の能力が低い」「段取りが悪い」などの暴言を吐く。
・不当に原告を叱責する。
・徹夜作業を命じ、翌日も通常通りの勤務を強要した上、「お前のせいで俺の作業が増えた」と罵り、謝罪を要求した。

この他、暴言、叱責、過剰勤務の強要などが繰り返されたため、パワハラについて会社代表に複数回訴えたものの、何も対策を行わず「君は協調性がない」「上司の言葉は神様の言葉に等しい」と逆に原告を非難し、「頭を冷やせ」と強制的に2日間休業させられた。

事実関係における原告と被告の主張は真っ向から対立する形となりましたが、判決では、原告が主張するパワハラの客観的証拠がないとして、慰謝料請求は認められませんでした。また、いくつかの主張は、事実であったと認められていますが、これも不法行為や安全配慮義務違反を構成するとは認めがたいと判断されています。

例えば、会社側が原告の訴えに対して何も対策せず、逆に非難されたということも、「原告が被告会社に求める措置が具体的に示されなかったこと等から、被告の対応が不法行為を構成するとは認めがたい」と判断されています。

裁判に持ち込むためには、十分に証拠を揃えることと、「業務や指導の適正範囲」について冷静に考える必要があります。

パワハラの場合適応される労災認定基準

パワハラにより心身に異常をきたすようなことがあれば、労災として認められるケースがあります。労災が認められれば、治療費や休業補償を得ることができますし、会社もパワハラを放置するわけにはいかなくなります。

労災認定は、労働基準監督署により判断されるものですが、2009年に精神疾患を労災認定する際の判断基準である「職場における心理的負荷評価表」が見直しされ、パワハラに関する項目が追加されたことにより労災認定のハードルが低くなったと言われています。パワハラによる労災認定を得るためには、大きく3つの要件を満たす必要があります。

精神障害を発症している

うつ病をはじめとして、認定基準の対象となる病気を発症しており、病院でその診断を受けていることが条件の1つになります。医師の診断がない場合や、対象外の疾患であれば労災とは認定されません。

業務に関連して発病する可能性がある疾患としては、うつ病や急性ストレス性反応などで、その他統合失調症なども対象になるようです。

発症前6ヵ月に業務による強い心理的負荷が認められる

業務上の特定の事象が労働者に心理的な負荷を与えたかどうかを判断します。負荷の強度は、「心理的負荷評価表」に基づき、三段階で評価されます。これは個人がどう受け止めたかではなく、一般的にどう感じるかという観点で判断されます。

例えば、「達成困難なノルマを課せられ、不達の場合はペナルティがあることを告知された」「時間外業務が急に著しく増加(100時間以上)し、その後の業務に多大な労力を費やした」場合などは負荷が「強」と判断されます。詳細は、厚生労働省のパンフレット「精神障害の労災認定」 業務による心理的負荷評価表で確認することができます。

職場外の心理的負荷によって発病したものでない

家庭事情などプライベートなことが原因である場合は、当然ながら労災は認定されません。「離婚又は夫婦が別居した」や「多額の財産を損失した又は突然大きな支出があった」など「職場以外の心理的負荷評価表」に基づき、労働基準監督署が調査の上判断します。

精神障害の 労災認定

パワハラで退職するとき必要なこと

退職は最後の手段ですが、「しかるべき部署に相談しても改善が見られない」「会社にパワハラを容認する風潮がある」などの場合は、転職を考える余力があるうちに退職するほうが良いかもしれません。パワハラで退職する際には気をつけなければいけない点があります。

退職届には「パワハラが理由で辞める」ことを明記する

退職をするときは、必ずしも退職届を書かなければいけないということはありませんが、パワハラが理由で退職するときは、退職届に「パワハラが理由で退職する」ことを明記して提出しましょう。退職届に「一身上の都合により」と書いたり、会社が用意した届出書にサインだけするというのは禁物です。これでは、離職票の退職理由が「自己都合」とされてしまいます。

「自己都合」と「会社都合」では、その後の失業給付金の支給内容に大きな違いが出てきます。「自己都合にすれば、退職金を上乗せする」などの条件を提示されることもありますが、その場合は、どちらが得になるのか、きちんと調べてから返事をするようにしましょう。

口頭での約束は反故されてしまうこともあるので、退職届にパワハラが理由で辞めることを明記しておくことは重要です。必ずコピーを保管しておきましょう。受け取ってもらえない場合は、配達証明郵便で会社に送っておきましょう。会社は「受け取っていない」という言い訳はできなくなります。

万が一、会社側が一方的に自己都合退職にしてしまった場合でも、ハローワークにパワハラがあったことを申請すれば、特定受給資格者として扱ってもらうことができます。そのためにも、集めた証拠はしっかり残しておきましょう。

転職理由を「パワハラ」と言うことの是非

面接で必ずと言っていいほど聞かれるのは「転職理由」。パワハラが理由で辞めたことを言うべきなのか、言わないほうが良いのか迷うところだと思います。

確かに「パワハラを受けた」というと、何か問題がある人なのか?面倒な人かも?と思われそうですよね。それが気になるのであれば、一般的な「キャリアアップのため」と答えることをおススメします。

一つ言えることは、「パワハラに負けた」「逃げ出した」と自分を責めたり、卑下したりしないことです。そのようなネガティブな感情に捉われているうちは、転職もうまくいかないでしょうし、転職先でも同様のことが繰り返されるかもしれません。

悪いのはあなたではなく、パワハラを行った上司やそれを放置した会社です。さっさと気持ちを切り替え、前を向くようにしましょう。「過去の経験を活かして、人間関係には柔軟に対応できます!」とパワハラを自己アピールの1つに変えられるようにしていきましょう。

上司だけがするものじゃない?逆パワハラとは?

上司から部下に対して行われるパワハラとは逆に、部下が結託して上司の指示に従わない、嫌がらせを行うなどの「逆パワハラ」も増えているといいます。

逆パワハラが起こる原因

逆パワハラは、仕事上の立場の上下関係とは別の力関係が生じていることによって起こります。例えば、店舗や工場などで、店長やグループ長だけが正社員で実際業務はパート社員やアルバイトを使って行っているような職場では、管理者より長年勤めているベテランパート社員の方が業務を熟知しており、他の従業員からの信頼も厚いということがよくあります。

もし、管理者がベテランの機嫌を損ねるようなことをすれば、パート社員の中には結託して管理者を排除しようとしたり、嫌がらせを行う人も出てくるでしょう。

また、IT業界など進歩が速い業種では、管理者よりも現場社員の方が当然最新知識を有することになり、「こんなことも知らないんですか?」「わからないなら口を出さないでください」などと言う反抗的な社員もいたりして、管理者としては立場がなくなってしまいます。

気の弱い人がターゲットにされることもありますが、管理者とは名ばかりで、実質的な権限を持たされていない管理者がターゲットになりやすいようです。

逆パワハラ特有の問題

逆パワハラのターゲットは、ほとんどの場合中間管理職です。上からは売上目標や業務改善などの業務命令を課せられ、それに従って部下を指導しようとすれば反発される。上からは押さえつけられ、下からは突き上げられるというまさに板挟み状態になります。

逆パワハラを会社に訴えれば、自分の管理能力や指導力を疑われることになるので、誰にも相談できないし、自分でも認めようとしないことが多いようです。このため、逆パワハラの実態があっても顕在化しにくいという特徴があります。

逆パワハラを止めさせるには?

管理者の指示に従わない部下は服務規程違反です。上司の権限で配置転換や懲戒処分などの厳格な対処を行うことも検討するべきです。でもそのような強硬な手段に出る前に、管理者としてやるべきことは健全な職場環境の整備です。

業務が属人化しないようにマニュアルを整備したり、ボトルネックを見つけたり、目標を明確にしたりなど、管理者にふさわしいリーダーシップを発揮していけば、部下の逆パワハラもなくなるでしょう。部下から「尊敬できる上司」「信頼できる仲間」と認めてもらえるような行動をしていきましょう。

まとめ

厚生労働省の報告によれば、4人に一人が過去3年間の間にパワハラを受けた経験があると回答しています。パワハラの問題は、企業にとっても経営上の重要な課題と認識されているものの、まだ具体的な対策が整っていないというのが実情で、特に従業員数99人以下の企業では、対策済みは2割未満とかなり遅れています。

もし今パワハラで苦しんいるのなら、まずは誰かに相談してみましょう。社内の対策が整っていなくても第三者機関に相談することで解決策が見つかったり、話すだけでも気持ちが軽くなることもあるでしょう。この記事で紹介しているサイトを有効に活用してくださいね!

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