地方自治体が保育士の人材確保に動き出した背景と厚遇策

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

以前より保育士の争奪戦は活発でしたが、最近、地方自治体が高額な条件を提示し、積極的に保育士の人材確保を進めているニュースを見かけることが増えてきました。背景を考えながら地域や待遇の内容についてまとめてみました。

自治体別の保育士不足の現状と争奪競争

全国の待機児童が3年連続で増加したことが1日、厚生労働省の集計で明らかになった。自治体はあの手この手の改善策を打ち出すが、保育施設ができても、保育士の確保に苦慮している。待機児童の多くが0~2歳児のため、子供の安全に注意が行き届く人手は必要で、人材確保の競争に頭を悩ませている。(2017.9.1産経ニュース)

引用:自治体、保育士確保の壁 給与上乗せ・家賃補助で争奪

2016年の流行語に「保育園落ちた日本死ね」がノミネートされ、日本全国で待機児童の増加が社会問題化されてから、10万円以上の新規就労祝い金(採用お祝い金)や引っ越し支度金を支給したり、家賃補助を実施したりといった優遇策を打ち出す地方自治体は数多くありました。こうした就職支援金や家賃補助を導入しても、潜在保育士の獲得にまでつながった成功事例は少ない印象です。

2017年9月1日に発表された最新の状況では待機児童数は全体の約1/3(8,586人)は東京都で発生しており、2番目に多いのが沖縄県で8.6%の2,247人、3番目に千葉県が6.9%の1,787人。他にも大阪府や兵庫県、埼玉県や福岡県など首都圏を中心に地方都市が上位に名前を連ねている。沖縄は県外からの人材流入が期待できない沖縄固有の問題がありそうだ。そうした背景から、待機児童が深刻化している地方自治体が、さらにワンランク上の優遇策を打ち出していると話題になり始めました。

沖縄県浦添市

浦添市は沖縄本島の南部地域と中部地域の境目に位置する市。那覇市、沖縄市、うるま市に次ぎ、沖縄県第4の規模を持つ都市。厚生労働省の発表によると2017年4月1日時点で都道府県別の待機児童数ランキングでワースト2位の沖縄県。

待機児童の解消に向けて、不足している保育士を確保しようと、浦添市は、県外から公立の保育所に就職する保育士に、引っ越しの支度金などを支給することになりました。浦添市の待機児童は、去年10月1日の時点で329人にのぼり、3か所の公立の保育所では、保育士が不足しているため受け入れられる子どもの数が定員を下回っています。このため浦添市は、ことし4月から、県外の保育士を、3年間、臨時職員として採用し、引っ越しの支度金や家賃補助などを支給することになりました。支払われる額は、3年間で、支度金として100万円、家賃補助は毎月6万円、給料は日当で最大1万円などで保育士1人あたり総額1100万円余りになるということです。

10人程度の採用を目指しているそうで、浦添市の担当者は、「沖縄全体で保育士の奪い合いが起きる中、県外からの人材を確保して待機児童の解消に努めたい」と話しています。3年間限定の臨時雇用ですが、これ以上ない待遇ですね。

千葉県松戸市

松戸市は千葉県北西部に位置する都市。千葉県内では千葉市、船橋市に次いで居住人口3位。ツイッターで保育園等で働く保育士(正規職員)に、施設からの給与とは別に、給与上乗せ額が松戸市から補助される「松戸手当」制度が広まり話題になりました。

月額支給額
1年目から12年目:45,000円
13年目から20年目:46,000円から72,000円
引用:松戸市の保育士確保に関する取組み-松戸市

新卒1年目から年間54万円が支給され、松戸市内であれば住宅補助最大3万円が支給されます。つまり最大で年間90万円の支給になります。他にも資格取得支援手当、永年勤続表彰、就職時の費用補助(実質の引っ越し手当)、保育所入所の優遇など複数の特典があります。

凄いのが学生向けに変換免除の貸付もおこなうそうです。千葉県内に保育士養成施設で働いている学生を対象に「総額120万円貸す。松戸市で5年働いてくれたら返さなくていい」といったルールにされているそうです。千葉県全域に影響を与えられる厚遇ですね。

これによって松戸市の周辺地域から人材流入が起きることが期待できます。一方で人材流出が直撃する自治体もありそうです。特に松戸市に隣接している柏市、流山市、市川市は影響力が大きい。この地域に住んでいる保育士は転職し、これから資格取得を目指す人や就職予定者は根こそぎ松戸市に奪われると予想されます。市川市は特に危険だと思われ、最新の調査結果(※)では自治体別の待機児童数が全国ワースト4位と深刻な状態にある。

沖縄県浦添市と比較して、短期的な家賃補助や引っ越し支度金では劣るもの長期的雇用を前提と考えると松戸市のほうがメリットがあると言えます。仮に20年間働くと考えると約1034万円~1252万円の松戸手当が支給されます。

千葉県船橋市

船橋市内の私立保育園、認定こども園、小規模保育事業所に勤務すると、給与の上乗せとして月額32,110円、期末手当71,460円(合計年額456,780円)の手当があります。(各保育園等から手当として支給されます。)

引用:ふなっしーも応援!船橋市内の保育園で働きませんか?

3つの特典として、ふなばし手当・家賃補助(最大月額82,000円)・修学資金を貸し付け制度(月額3万円)をアピールしています。都道府県別にみると最新の調査結果では待機児童数のワースト1位は東京都ですが、千葉県もワースト3位と深刻な状況。

埼玉県戸田市

戸田市では、市内私立保育所等に就職する保育士さんを対象に、最大30万円を給付する「就職支援給付金」と、月々の家賃を助成する「宿舎借上支援」を2017年4月から新設しました。2018年4月からは、さらにボーナスに年間20万円の上乗せを助成する「保育士緊急確保・定着促進事業補助金(仮称)」を新設する予定です。

保育士の「働きやすい環境づくり」に本気で取り組みます!-戸田市公式サイト
https://www.city.toda.saitama.jp/soshiki/254/hoikujinzai.html

戸田市とハローワークが共催で、保育のお仕事説明会を開催などの取り組みも始めています。また、松戸市と同じく保育士の子どもの保育所入所に関して優遇することも予定しているそうです。

保育士の人手不足の原因と採用課題

埼玉県戸田市の調査では就業したきっかけで、求人サイトが一番多く28%、2番目に施設への直接申し込み19%、3番目に知人友人の紹介14%、4番目がハローワーク(公共職業安定所)13%でした。保育士専門求人サイトも乱立していますが、ユーザー確保が難しい分野です。母集団が壊滅的に少ない中で、求人広告媒体・人材紹介・人材派遣といった採用手法で解決できる問題でないことがわかります。

人手不足の原因①国家資格の保育士

母集団が少ない理由の一つに、保育士が国家資格であることが挙げられます。国家資格を取得するには保育士を養成する学校その他の施設で所定の課程・科目を履修し卒業するか、保育士試験に合格するかの2択です。保育士試験に関しては受験できる条件も短大卒と厳しく、簡単ではありません。

人手不足の原因②低収入と仕事量

現場の声を聞くと「給料が安い割にしんどい」と復帰する人も少なく、専門職にも関わらず、保育士の長時間労働と低賃金が問題視されています。平成28年の厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、保育士の平均年齢36歳で、平均年収は約326万円となっています。

戸田市の調査では、主な不満点に収入、有給休暇取得、保育以外(記録、教材作成等)の業務が挙げられている。現在の勤務先での保育士就業年数が3年以下で約6割を占めており、約半数は今後保育士を辞め他の職種で働きたいと考えていることがわかった。

潜在層の発掘と言っても限界があるので、本来は国家資格の条件の見直し、低賃金と待遇面の改善、男性保育士の育成など働きたいと思える人を増やす施策が求められます。病院内や事業所内の認可外施設から人材を奪い合うだけでは採用難は改善されないでしょう。

まとめ

こうした全国レベルでの「人材の奪い合い」の動きは今後さらに活発化が予想されます。二番手、三番手では先行している一番手よりも厚遇しなければ人材確保が難しいため、いち早く実行に踏み切った地域が有利であることは間違いありません。地方自治体の皆さんは隣接する市区町村が始めるよりも早く人材の囲い込みを進めることをおススメします。

参照:厚労省保育所等関連状況取りまとめ(2017.4.1)
参照:戸田市保育士アンケート調査報告書
参照:厚労省発表最新自治体別待機児童数は2万6千人(高橋亮平)-Yahoo!ニュース

スポンサーリンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加