求人広告業界全体の技術的な部分を含めて未来はどうなるのか聞かれました。次の10年間で何がどのように進んでいくのか。過去の動向や業界地図を振り返りながら予測してみました。
10年間の歴史
この10年間を振り返ると、新卒、中途、アルバイトすべての領域において主要プレイヤーと呼ばれる企業・求人メディアに変化はありません。参入障壁は低い業界ですが、知名度が重要視されている求人メディア市場では世代交代のハードルは高いと言えます。
新卒採用市場ではリクナビとマイナビの2強時代が10年以上続いています。変化があったのは少子高齢化や有効求人倍率の影響から周辺サービスとして母集団形成、内定辞退、内定者フォローが充実しました。
2大横綱の牙城を崩そうと脱ナビサイトを公言するサービスは多い。逆求人、ソーシャルリクルーティング採用、ダイレクトリクルーティング、ミートアップなどの新しい採用手法が一部で注目されるもメジャーになりきれていません。今後もリクナビとマイナビが新卒採用の本流であることは変わらないと考えられます。
アルバイト市場ではバイトル、タウンワーク、マイナビバイト、インディードの4強が不動。次いでフロムエー、an、イーアイデム、エンバイト、シフトワークス、ドーモが上位陣として不動の地位にあります。10年前と比較するとインディードくらいしか入れ替わりがありません。
激減した有料求人情報誌
アルバイト広告市場ではこの10年間で有料求人情報誌や折込求人誌が激減しました。
2008年に起きた世界的金融危機リーマンショックが一つのターニングポイントになっており、広告収入が落ち込み、マーケットが縮小する中で倒産や事業撤退した会社も多数。大手求人情報誌だったビーイング、フロムエー、ガテンも休刊(事実上の廃刊)。他にも多くの有料求人情報誌が休刊に追い込まれました。ただし、統廃合やネット移行によって今もフロムエーは主要プレイヤーに数えられています。
公益社団法人全国求人情報協会が発表している広告件数推移によると2015年4月以降は求人サイトが紙媒体全体を上回って推移しています。2004年の統計調査では約20万件以上掲載されていた有料求人情報誌ですが、2017年8月にはついに3万件を下回ってしまい1/5以下に減少。90年代に一世を風靡したフリーペーパーは終焉を迎えました。
リクルートがなぜタウンワークだけ紙メディアを残しているのか正確な理由はわかりませんが、一つは独自性を残したかったのだと推測されます。完全にネットにシフトチェンジするとビジネスモデルとしての差別化ポイントがなくなり、掲載企業にとっては「どこも違いはない」と思われるデメリットがあります。二番目に相次ぐ休刊によって紙媒体が減ったからこそ希少価値も高まりました。
台頭してきた新興メディア
中堅以下では新陳代謝が活発。新興メディアとしては株式会社リブセンス運営のマッハバイト(旧ジョブセンス)と転職ナビ(旧ジョブセンスリンク)、株式会社インターワークス運営の工場ワークス、株式会社アトラエ運営のGreen、ウォンテッドリー株式会社運営のWantedlyらが台頭。
各社とも得意領域で存在感はあるものの、機能や技術的な部分でのインパクトはなく、サイト規模感は年間売上10億~20億円とニッチ分野もしくは専門サイトの領域から抜け出ていません。
それに対して各社とも既存領域の拡大に専念するのではなく、第三領域への新規事業に挑戦中。リブセンスは賃貸情報サイト運営、ウォンテッドリーは名刺管理ツール、アトラエはビジネスパーソン向けのマッチングアプリなど、中長期戦略として複数事業での収益化を図っています。
スマートフォン革命
アップル社が2007年に発売したiPhoneを筆頭にスマートフォンの普及が求人メディアにも大きく影響しました。時代はインターネットからスマートフォンに完全にシフト。以前は携帯に強い媒体は10代後半から20代前半がユーザー層でしたが、現在では全世代がスマホを利用しています。
総務省が発表している統計では2016年現在で10代のスマホ普及率は94%、30代で81%、60代でも47%になっています。「地方はまだガラケーでしょ」と言われることもありますが、北海道や東北でもスマホ利用率は約70%とガラケーよりも圧倒的にスマホが普及されています。求人メディアにおいてもスマホもしくはアプリ対策がスタンダードになったと言えます。
サイトリニューアルの意味と目的
各メディアとも大小さまざまなリニューアルをおこなっていますが、リニューアルの目的を一つに絞ることはできません。グーグルのアルゴリズム変更に合わせてフロントエンドは常に最適化し、デバイス対応は絶対条件。最近はバックエンドの大規模リニューアルも増えてきています。
リニューアルの目的はアクセスアップや新機能実装だけではありません。サイト健全化を目的にした機能拡張、法人営業サイドの操作性の向上、広告制作部署の要望を実現した管理画面の効率化・平均化・標準化も挙げられます。ユーザー・広告主・運営企業それぞれのニーズが違う中で最適化が求められ、各社とも機能を求めすぎて複雑な構造にならないように直観性を意識した改善に努力しています。
現在の社会問題と外部環境
ブラック企業やブラックバイトと言った過重労働・違法労働は10年以上前から解決できずに残っています。大卒の30%が3年以内に退職するミスマッチ問題も直近10年で平行線を辿っている状態。この10年間で全く解決できていない問題でしたが、現在では政府主導で過酷な労働環境や違法な労働問題を是正する動きが少しずつ広まっています。
近年は生産年齢人口の縮小によって需要の供給のバランスが完全に崩壊。労働人口の減少は避けることができないため、今後は常に採用が難しい局面が続くと予想されます。そのため雇用主側は働き方改革と銘打って副業推進やリモートワークなど多様な働き方が可能になっていくことが求められます。
こうした問題に対して、日本政府は外国人労働者の受け入れによって新しい労働力の確保を狙っていますが、世界的に成功している事例はまだなく、不安視する専門家も多いです。次の10年では外国人雇用問題と多民族社会が社会問題とされてくるでしょう。
テクノロジー分野との相性
求職者と掲載企業双方でのユーザビリティ(顧客満足度)に各社とも努力していますが、技術的な差別化が難しいのが求人メディアです。最先端のテクノロジーとして深層学習(ディープラーニング)が注目されていますが、AIや機械学習(マシンラーニング)が進化してもレコメンド機能が多少向上する程度ではないでしょうか。
求人広告メディアは読みやすさも求められますが、役割は情報量や情報の正確性にあります。逆に言ってしまえばユーザー側からは技術的な部分は求められておらず、それほど課題にも挙がっていないでしょう。むしろ人工知能は人材紹介業界の問題と相性が良く、ミスマッチ問題の課題解決手法として期待されています。
求人広告メディアの10年後
プラットフォームの変化の可能性
求人メディアに限らず多くの国内メディアがGoogleの検索エンジンに依存していますが、検索エンジンやプラットフォームがどのように変化するかで求人メディアの勢力図も変わる可能性はあります。
しかし、世界的に勢力を増しているFacebook、YouTube、Instagram、Line等のSNSや動画共有プラットフォームが頭角を現すも、王者Googleが今後もリードしていくのではないのでしょうか。
各社とも良い機能は積極的に取り入れる姿勢は持っており、業績に直結するグーグルのアルゴリズムの変化には非常に敏感なので、グーグルが衰退しない限りは業界再編が発生しづらいです。
仮にプラットフォームが変化しても、特殊な事情がない限り求人広告メディア側自体は資本力のある大手が強いのは言うまでもありません。社会的信頼を損なう致命的なミスをしない限りは、主要プレイヤーは変化しない可能性が高いと言えるでしょう。